予防接種は、なぜ受けた方がよいのか?

image001水痘がはやるとわざわざもらいに行って、早いうちにかかっておこうとする人がいます。これはどうなんでしょうか?

私が大学病院に勤務していたころのことです。大学病院には重症患者が多く、白血病や自己免疫疾患など、免疫機能が低下している子どもたちが多く入院しています。当然、病棟内への立ち入りには厳しい制限があって、両親以外は兄弟も入ることができません。なかには「弟が会いたがっているのにどうして会わせてもらえないのか。」と文句を言う親御さんもおられます。しかし免疫能の低下した子どもたちをあらゆる感染から守るということは容易ではなく、たとえば水痘の潜伏期にある人が知らずに病棟に入った時などは大変でした。免疫機能の低下した子どもたちすべてに急いでγ-グロブリンを注射するのです。でもある日のことです。潰瘍性大腸炎で免疫抑制剤を使っていた小学生のきみこちゃんが水痘を発症してしまいました。免疫機能が低下した人が水痘にかかると劇症型の水痘になります。きみこちゃんは発症した翌日に天国に行ってしまいました。昨日まで元気に話をしていたきみこちゃんが水痘を発症して2日目に亡くなったのです。今でもきみこちゃんの顔が脳裏に焼き付いて離れません。大変ショックな出来事でした。でも水痘を持ち込んだ人はそんなことは知る由もないのです。人は「誰にうつしたか」ということには全く無頓着な存在なのです。みなさんが当たり前に治ると思っている感染症で大変な目にあった子どもたちを何人もみてきました。できればこうした感染症は撲滅できればいいに決まっています。そのためにはみんなで予防接種を受けるということが大切なのです。天然痘はそのようにして撲滅できたではありませんか。

予防接種がある病気は基本的に怖い病気と思って間違いありません。元気な子がかかったとしても一定の割合で重篤な合併症を引き起こします。水痘にかかると脳炎や小脳失調症を合併することがあります。おたふくかぜにかかると膵炎や髄膜炎、難聴をきたすことがあります。おたふくかぜの難聴は1000人に一人、そしておたふくかぜが治っても聴力は生涯元には戻りません。そのほかの病気も同じくです。合併症なく治る子がほとんどであるのは事実ですが、なかには命に係わる重篤な状態になることもあるのです。そしてそれはワクチンで生じる重篤な副作用とは比べ物にならないくらいの高い確率なのです。ワクチンをうったほうがよいかどうかは明らかなのです。

ワクチンをうってもかかることがあるんだったら、痛い思いをさせてまでワクチンをうたなくてもいいと思われる方もいるかもしれません。インフルエンザなども確かにうっても罹ることはあるのですが、重篤な合併症を引き起こすことはなくなります。私自身、インフルエンザで高熱を出している子を診察していても、ワクチンをうっている子は安心してみることができますが、ワクチンをうっていない子は診ていて不安に感じることが時々あります。Hibや肺炎球菌ワクチンも同じく、うっている子は乳幼児期に発熱で受診されても、少し安心感を持ってみることができ、昔と比べると本当に助かります。細菌性髄膜炎をある程度除外して考えることができるということ、診察できるということは、医者からすると本当に助かるのです。

副作用が全くないワクチンはありませんが、自然に罹患した時に合併症を引き起こすリスクと比べると、非常に小さい確率でしか副作用は起こりません。科学的に考えてもワクチンは絶対にうっておくほうがよいのです。大切なお子さんを守るためにも、また周囲の他の子どもたちを守るためにも、ぜひ誘い合って予防接種を受けていこうではありませんか。

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