医学の進歩に関心を持とう!

image001私は医師になって20年以上たちますが、医学は年々進歩しており、「20年前の常識が今では非常識」ということがいっぱいあります。少し勉強を怠ったら時代遅れの医者になるという恐ろしい世界なのです。でも、日々臨床をしていて思うのは、根拠のない常識や思い込みが世の中にはたくさんあって、多くの人がそれを信じていると、世間ではそれが正しいと判断され、科学的根拠に基づく正しい見解であったとしても、それに抗うことは非常に難しいということなのです。しかし、科学的根拠に基づく新しい医学を地域に浸透させるのも医者の役目なので、このおひさまだよりを使って、今後たくさんの新しい知識(新しい常識)をお伝えしていきたいと思います。

今回はまず、創傷治療についての現在の科学的根拠に基づく正しい方法をお伝えしたいと思います。これまでの常識は「消毒をしてガーゼを当てる」あるいは「バンドエイドを貼る」ということであったと思います。しかしこれらはすべて間違ったやり方であることがわかりました。傷ができると浸出液が出てきてジュクジュクしてくるのを経験したことがあると思います。その浸出液は実は細胞の培養液みたいなもので、新しい細胞を成長させる因子をたくさん含んでいます。それをガーゼでふき取ってはいけないのです。「傷は乾かすと治らない」のです。最近出てきた傷パワーパットは傷口を密封して浸出液をとどめて早く治すためのものなのです。しかもうれしいことに浸出液をとどめて傷口が空気に触れないようにすると痛みがありません。傷自体の痛みもなく、ガーゼをはがすときの痛みも経験しなくて済むのです。傷口は閉鎖すれば細胞の成長が進み、早く治ることがわかってきました。

次に消毒についてですが、細菌はその表面に細胞壁や莢膜という鎧を着ています。それに対して人体の細胞にはそれらはなく、消毒で死ぬのは細菌よりも人体細胞なのです。せっかく組織の修復に集まってきた細胞を殺すことになるのです。傷口に菌がいてもそれだけでは感染はおきません。その証拠にたとえば切れ痔があったとしても、あんなに細菌だらけの場所にできているにもかかわらず感染を起こさないことがほとんどではないですか。細菌がいるということと感染を起こしているということはイコールではないのです。のどに溶連菌が付着しているということと、溶連菌感染症を発症しているということが同じでないのと同じことなのです。また皮膚には皮膚常在菌が存在し人間と共生しています。人は常在菌に皮脂をエネルギー源として提供し、常在菌は病原菌の侵入を防いでくれています。そうした常在菌をも消毒は殺してしまいます。また消毒薬には危険性もあり、その他さまざまな理由から単純な傷の場合「消毒はしてはいけない」のが正しいことなのです。噛まれた傷の場合は別にして、単純な傷の場合は、「傷口を水道水で洗ってきれいにし、密封する」(閉鎖療法)。これが現在のエビデンス(科学的根拠)に基づく創傷治療の方法なのです。

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