マイコプラズマ感染症……どこまで知っていますか?
ドクターズファイル
最近よく耳にするマイコプラズマ。どのような感染症なのでしょうか?
病気と闘うには、その正体を知ることが最も大切です。今回は、マイコプラズマについて少し勉強してみましょう。
マイコプラズマ感染症は、マイコプラズマという細菌によって引き起こされる病気です。感染力はインフルエンザや水痘のように強くはなく、飛沫感染ですが、感染が成立するには比較的濃厚な接触が必要なため、家族内や保育園、学校といった集団内で感染することが多くみられます。また、潜伏期間が2~3週間と長いため、インフルエンザのように短期間で集中発生することはなく、数か月かけてだらだらとくすぶり型の流行パターンを示します。小学生や中学生に多発し、1歳以下の発症は少ないのも特徴です。その理由は、マイコプラズマは、その細菌自体が直接的な細胞障害性を持たず、生体の免疫応答の結果、誘導されたサイトカインという免疫物質などが症状を引き起こすものであるからです。したがって免疫応答が弱い乳幼児では肺炎などの症状は起こりにくいのです。
次に症状ですが、多くの場合は、急性上気道炎、すなわち軽い風邪症状のみで終わります。しかし、なかには発熱と咳が持続、増強し、マイコプラズマ肺炎になるケースがあります。それでも通常2~3週間程度で治癒しますが、菌の排出は回復後も数週間は続くため、治った後の元気な状態の子でも感染源となるのです。他の細菌性肺炎と比べると比較的重篤感のないのも特徴ですが、まれには急性脳炎や髄膜炎、心筋炎や中耳炎などを引き起こすことがあり慎重に診ていく必要があります。
また診断方法に関する誤解を多くの方が持たれているように思います。インフルエンザや溶連菌のように抗原(ウイルスや細菌)自体を直接的にとらえる迅速検査法はなく、血清中の抗体を検査する迅速診断キットがあるのみなのです。その特異度は43%で信頼性には欠けると言わざるを得ない検査です。どう違うかというと、抗原を検査する場合は、今まさにそこに菌がいるということがわかりますが、抗体を検査する場合は、その人が抵抗力を持っているかどうかがわかるのみなのです。そして、抗体は発症後5日以内では作られておらず、熱や咳が出て5日以上たたないとわからないのです。しかもいったん上昇した抗体はその後半年以上も高いまま存在し続けるため、陽性と出たとしても、今かかっているものなのか、過去にかかったものなのかがそれだけではわからないのです。したがって正確な診断には普通、2~3週間あけて2回抗体価を測定しその上昇度によって行われます。しかし軽い風邪症状で終わるケースの場合、2回採血をして、それでも確定診断に3週間ほどかかる検査をする必要性には乏しく、実際にはあまり行われていません。となると臨床診断、すなわち専門医による診立て、症状や経過、診察所見、流行状況などを考慮した診立てに依存するところが大きい病気なのです。今は何でも数値や検査でわかるという誤解が存在しますが、そのあたりを理解して診察を受けていただけるとよいかと思います。